せっきーの日記

ドラマ『アライブ』を語るために始めました。主にドラマについて語ります。

隠れた名作ドラマ『アライブ』を語りたい

 

「腫瘍内科医はメスを握らないからこそ患者さんとの寄り添い方や向き合い方、距離感やコミュニケーションが非常に重要になってくる」

 

主演の松下奈緒が番宣で出演(確かグッディ)した際のコメントだ。このコメントこそが『アライブ』というドラマを的確に表していると思う。

 

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2020年冬ドラマ木曜10時から放送中の『アライブ』、腫瘍内科を舞台に癌治療について描いていく医療ドラマであり、ヒューマンドラマだ。タイトルにある通り、このドラマが隠れた名作なのである。

 

いや、隠れてないけどね!!ドラマ好きからはかなり評判良いんだけどね!!

 

なんせ、視聴率がめちゃくちゃ低いのだ。9話の視聴率は6.4%らしい…

 

なんでなん!?(千鳥ノブ風)

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このドラマの質は今期No. 1どころか今年放送されるドラマの中でもトップ争いをするくらいに高い。なのに全然観てる人がいない…

 

『恋◯づ』のようなドラマとしての完成度がべらぼうに低い作品の方が視聴率を取ってるのは何故か。やっぱり楽に観られて何か1つ分かりやすい特徴(佐藤健がかっこ良すぎる)を持ったドラマが好まれるのだろうか。

 

いや、『アライブ』の視聴率が低い理由は何となく分かる。力のある役者を集めた結果地味なキャスティングにも見えてしまう事、そもそもテーマが重い事(TwitterのTLでも、身内に癌患者がいるから辛くて観られないというツイートを何度か目にした)、派手さが無い事、etc…

 

そう、そもそも万人に観てもらえる土壌が出来てなかったのだ。しかしながらこれほどまでに高いクオリティを保ちながら世の目に触れないのは納得が出来ない!!!

 

 

という事で今日は『アライブ』の魅力を語っていこう。何せ『アライブ』を知って欲しくてブログを始める決心をしたのだ。大いに語らせていただきたい。

 

 

 

(真面目モードでいきます)

 

 

『アライブ』は松下奈緒演じる腫瘍内科の恩田心先生と木村佳乃演じる消化器外科の梶山薫先生を中心に、時に投薬治療で、時に外科手術で、癌を抱える患者さん1人1人と向き合いながら治療を進めていく医師と患者の物語だ。1つ1つのストーリーが物凄く丁寧にそして真摯に癌という病気に向き合い作られている。

 

男性の乳ガンや緩和医療、民間療法、ガン患者同士の交流会、グリーフケアに妊婦の患者、etc...とガン治療を取り巻く様々な状況を丁寧に分かりやすく時には重く描いていて、毎話毎話観るのに勇気がいる一方、観終わった後には「観て良かった」という気持ちにさせられる。泣かされることも…。

 

1番グサっときたのは「癌という病気は容赦なく、患者さんの大事な大切なものを奪っていく」「癌患者だってやりたい事やっていい、欲しいもの欲しがったっていいというセリフだ。医療が発展して癌が治る病気になってきた今でも、癌は患者さんの人生を、命を左右するものなのだと改めて感じた。しかしその一方で、癌だからと全てを諦めるでもない。このセリフに腫瘍内科医の難しさと患者さんの苦しみが表れているのではないだろうか。

腫瘍内科は患者さんと向き合う時間が長いからこそこのような問題にぶつかる事が多々あるのだろう。こういった苦しい辛い現実を逃げずに直視し、そして苦しくて辛いからこそ丁寧に優しく視聴者に届くように描いているのが『アライブ』の素晴らしい所だ。

 

 

ストーリーもさることながら、各キャラも非常に個性があり、魅力的だ。

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何か困った時に優しく手を差し伸べ道筋を示してくれる部長の阿久津先生(木下ほうか)、仕事場を明るくしてくれるおちゃらけキャラなのに緩和ケアのスペシャリスト光野先生(藤井隆、不器用ながらも患者に向き合おうとする研修医結城(清原翔、患者との接し方に悩みながらも成長していく同じく研修医夏樹(岡崎紗絵、腫瘍内科のメンバーに愛着が湧いてしまってこのドラマが終わってしまうのが辛い。

特に木下ほうかはこれまでイヤミなキャラクターを多く演じてきたのが信じられないくらい、この信頼できる上司の役が似合いすぎている。彼の代表作と言ってもいいのではないだろうか。

 

そしてこのドラマは人の「強さと弱さ」も描かれていると私は捉えている。

2話の放送終了時に私はこんなツイートをしている。

 

 

松下奈緒木村佳乃という役者から受ける印象も少なからずあったが、この時恩田先生は旦那さんが意識不明の状態にあり自分の身内が命の危機にあるのに何もできないという無力感や憔悴した感じが表に出ているとともに、息子を守り抜く、患者さんに向き合い仕事を全うするという強い意志も感じた。

一方梶山先生は恩田先生を支えながら腕のある外科医として強い女性のように描かれながら何か問題を抱えている、その問題に気付かれないように強い女性を保っているのではないかと感じた。

だからこそこのツイートなのだが、9話が終わった今、私はこう思っている。

 

「強さの裏に弱さがあるのが恩田先生(松下奈緒)であり、弱さの裏に強さがあるのが梶山先生(木村佳乃)ではないか」

 

ドラマを観ていた視聴者なら何となく分かっていただけるのではないだろうか。ストーリーが進むにつれ、恩田先生を強い女性と描く事が増え、梶山先生の弱さが現れてきたのだ。

 

正直私のこの感想が正しいのかは分からない。しかし、人の「強さと弱さ」はそのような物なのではないか。見る視点が変わると見え方が変わってくるのだ。これは患者さんと医者という立場でも同じ事だろう。だから難しい。

 

 

「強さと弱さ」は各話でゲスト出演する患者さんにも見受けられる。これは冒頭紹介した松下奈緒のコメントにもあるように、患者さんとしっかり向き合うからこそ見えてくるものだ。闘病中の患者さん達は誰しも不安を抱えていると思う。腫瘍内科を舞台にしたからこそ、温かく丁寧に患者さんと向き合う過程を描いているからこそ「強さと弱さ」がはっきり見えてくる。そして我々視聴者はそこから登場人物の人となりを知り、彼らへ想いを巡らせ、物語へ入り込んでいくのだ。『アライブ』にヒューマンドラマ要素を強く感じるのはこういった製作陣の細かく丁寧な作りが作用しているからだ。

 

そして「強さと弱さ」を語るなら民代さん(高畑淳子も欠かせない。

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いつも明るく医者を笑顔にし他の癌患者を前向きにさせてくれる、太陽のようなキャラクターの民代さんはこのドラマの主要キャストの1人と言っていいだろう。

 

もちろん民代さんの「強さ」はいつも明るく周りにパワーをくれる事だ。他の患者さんを支える立場にもなっていて、自身の経験から他の患者さんへ勇気を与えている。

では「弱さ」は何か。私はいつも明るく振る舞っている所こそが「弱さ」でもあると感じた。弱い自分を見せられない、冗談で弱音を吐く事はあっても真剣なトーンで弱音を人前で吐いた事が無い(マイナスな発言は何度かあったが、あれは弱音ではなく本音だと思う)、これは民代さんの弱さも表しているのではないだろうか。自分にポジティブにいようと言い聞かせてたのか、弱っている所を見せたくないと強がっていたのか、そこは分からない。ただ、民代さんも明るいだけの人ではないはずだ。

 

 

9話はそんな民代さんの回だった。自分のやりたい事をするために抗がん剤治療を受けずに海外旅行に旅立った民代さんだったが旅先で容態が急変し、病院に運ばれた時には今まで通り明るさを持ちながらも元気な民代さんではなくなっていた。民代さんのあの姿にショックを受けた視聴者も沢山いるだろう。そしてそこからも容態は悪くなり、最後は民代さんの病室で腫瘍内科の医者が集まりパーティーを開くこととなる。民代さんは恩田先生の些細な調子の変化にも気がつく察しの良い人だ。このパーティーが何を意味するか、恐らく分かっていただろう。嬉しくて辛くて、楽しくて残酷な時間だ。それでも民代さんは明るかった。このパーティーが楽しく先生方の心遣いが嬉しかったのもあるだろう。最後の最後まで「強さ」は健在だった。先生方もXRを使い民代さんのやりたい事を出来る限り叶えようとするなど、民代さんの最後の最後まで寄り添い続けた。このドラマの中でも1番と言って良いほどの素晴らしい回だった。

 

 

ここで少し話がズレるが、あなたは「演技が上手い女優」と聞いて誰を思い浮かべるだろうか。

私は大竹しのぶ高畑淳子だ。2人とも言わずと知れた大女優である。

 

大竹しのぶは「憑依型」の女優と言われ、普段のゆったりとした感じからアクションがかかると一変、完全に役に入り込み完璧な芝居をするという逸話を何度も聞いたことがある。ただ、大竹しのぶは恐らく「舞台向き」の女優である。

それでも、生きてゆくというドラマをご存知だろうか。

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彼女はこのドラマ内で瑛太満島ひかり風間俊介といった一流の役者と対峙しながら、格の違いを見せつけてきた。良い意味で強すぎるのだ。テレビで収まる迫力ではない、圧倒された。このドラマは役者陣の凄まじい演技合戦を観ることが出来る。時間があればぜひこちらも観ていただきたい。

 

一方、高畑淳子は完全なる「ドラマ向き」の女優だろう。テレビサイズに収まる中で、実際にその人物が存在するだろうと視聴者に思わせる演技をしてくる。おちゃらけおばさんも、優しさ溢れる母親も、厳しさを感じる姑も、誰かを追い詰める冷酷さを持った人物も、全てテレビサイズで完璧に演じてくる。

 

断言しよう、テレビドラマにおいて日本一演技が上手い女優は高畑淳子である

このドラマでもその高畑淳子の凄みをこれでもかと感じる事が出来る。特に9話は日本一の女優の日本一の演技を見させていただいた。何度観ても損は無いだろう。

 

その9話では製作陣の強いこだわりも感じた。民代さんが亡くなったシーンは映さず恩田先生の涙で間接的に表現し、しかもその恩田先生が見ていた雑誌の記事を読み上げる民代さんのナレーションは元気な頃の民代さんの声だった。

これは民代さんの明るく元気な姿をずっと観てきた視聴者にこれ以上彼女の弱ってるシーンを観せずに元気な民代さんとお別れをさせるという製作陣の気遣いであり強い拘りではないだろうか。民代さんの力強い声に、1つ1つのセリフに、心を震わされた。製作陣は癌という難しいテーマと真摯に向き合いながら視聴者とも向き合ってくれていると感じるシーンだった。

 

 

 

『アライブ』も残り2話となる。この物語の終着点はどこなのか、私たちはこのドラマを観て何を感じ何を学べるのか、癌という現代医療では身近な病をテーマに腫瘍内科を扱ったこのドラマが果たす役割とは、、、終わってしまうのが寂しいが残り2話を待つと共にこのドラマを放送してくれた意義を考えていきたい。

 

そしてより多くの人にこの作品を知っていただきたい。医療ドラマ好きなあなたも、ヒューマンドラマ好きなあなたも、そもそもドラマをあまり観ないあなたも、1度観たらこの作品の素晴らしさを感じるだろう。視聴率という数字だけで語らずに、ぜひこの作品との接点を持って欲しい。『アライブ』はあなたの時間を必ず有意義なものにしてくれるはずだ。